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和歌山地方裁判所 昭和29年(ワ)397号 判決

原告 土橋成

被告 河村俊雄こと閔永運

主文

被告は、原告に対し、金四十六万円、及び、これに対する昭和二十六年十二月二十日から完済まで、年五分の金員を支払わねばならない。

原告その余の請求は、これを棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告において金十五万円の担保を供するときは、その勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

原告は、「被告は、原告に対し、金四十六万円、及び、これに対する昭和二十六年三月二十五日から完済まで年五分の金員を支払わねばならない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決、ならびに、担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「被告は、昭和二十五年十二月頃、大東興業株式会社(以下単に会社という。)の設立を企図し、被告が社長となり、訴外池田泰造が専務取締役、訴外堀口義則が常務取締役となつて、設立登記をしないまゝ右会社名で鉄工業ならびに金属等の売買仲介業を営んでいたものであるところ、古物商を営んでいた原告は、同二十六年三月十七日、右会社から、当時訴外城野大成方に在つた古鉄類を買受ける契約をし、即日代金の内金五十六万円を支払い、残代金は、同月二十四日、右買受商品を原告住所において引渡しを受けると同時に支払う約束であつたところ、会社は、前記商品の引渡しを履行しないので、種々交渉の結果、同年十二月十九日、前記契約を合意解除したから、会社は同日限り原告に対し前記前渡代金を返還する義務があるのに、内金十万円を返還したのみで、残額四十六万円を返還しないまゝ事業不振のため解散したが、その際、被告は、原告に対し、右会社の債務を被告において支払うと約した。よつて、こゝに被告に対し、前記前渡金残額四十六万円、及び、これに対する前渡代金支払の日の翌日から完済まで、民法所定年五分の遅延損害金の支払を求めるため、本訴に及んだ。」と述べ、証拠として、甲第一ないし第七号証を提出し、証人池田泰造(一、二回)、堀口義則の証言ならびに、原告本人尋問の結果を援用した。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、「原告の主張事実中、原告が古物商を営む者であることは認めるが、その余の事実をすべて否認する。」と述べ、証拠として、証人荒木文治、及び、鄭海浜の証言、ならびに、被告本人尋問の結果を援用し、甲第七号証の成立を否認し、同第一ないし第六号証はいずれも不知(但し甲第三及び第四号証中、官署作成部分の成立は認める。)と述べた。

理由

証人池田泰造の証言(一、二回)、ならびに、原告本人尋問の結果に、右証拠によつて真正に成立したと認められる甲第一及び第二号証を考え合わせると、古物商を営む原告が、昭和二十六年三月十七日、大東興業株式会社専務取締役池田泰造から、同人が訴外城野大成から右会社名で買受けた古鉄類約四十屯を買受ける契約をし、即日池田に対し前渡代金として金五十六万円を交付し、池田はこれを右訴外人に支払つたところ、同訴外人から買受商品を送つて来ないので、池田と種々交渉した結果、同人との間に、同年十二月十九日右売買契約を解約する旨暗黙の合意が成立し、同日同人から前渡代金の内金十万円の返還を受けたが、残額については未だ支払われていない事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠がない。

ところで、証人池田泰造の証言(一、二回)、ならびに、被告本人尋問の結果(後記信用しない部分を除く。)によると、右大東興業株式会社なるものは、昭和二十六年始め頃、池田泰造と被告外数名が、鉄工業ならびに一般商品の売買を営むために設立しようとした会社の商号で、右会社設立の後は、被告が代表取締役、池田が専務取締役にそれぞれ就任を予定していたものであるが、本件売買契約当時、池田は、右会社が既に設立されているかのように振舞い、右会社名を使用して商取引をしていたものであつて、被告等も同人に前示業務運営を含めた右会社に関する一切の行為を委ねていたものであるが、右会社は結局設立登記をしないまゝ(設立登記前における各種会社設立手続をしたかどうか不明であるが、この点はしばらく措く。)、同二十七八年頃営業不振のため事実上解散して不成立に終つたことが認められ、右認定に反する被告本人尋問の結果の一部は採用し難い。

そうすると、右会社を売主として表示した本件売買契約は、被告と池田泰造ほか数名の者の組織する組合―会社設立と、前示事業を営むことを目的とする組合―と、原告との間に締結されたものというべく、これにより権利義務は、特別の事情のない限り被告及び池田等組合員個々の間に平等に分割されるといわねばならず、(本件売買契約が、会社設立に関してなした行為といえないことは多言を要しないであろう。)従つて、原告の右会社に対する本件前渡金返還債権も、右理由により被告及び池田等に対する分割債権であつたと言わねばならない。

ところで、証人池田泰造(一、二回)の証言、ならびに、原告本人尋問の結果に、右証拠によつて真正に成立したと認められる甲第四号証を考え合わせると、前示の通り会社(正確にいえば組合。以下本項において同じ)が事実上解散する際、池田と被告との間に、池田において、会社が訴外城野大成に対して負担している債務を引受けるかわりに、被告において、会社が原告に対して負担している本件前渡代金返還債務を引受ける旨の清算契約が成立し、池田からこの旨原告に通知して、その頃原告の承諾を得た事実が認められ、右認定に反する証人荒木文治の証言、ならびに、被告本人尋問の結果は、前掲証拠に照して信用することができず、他に右認定を覆えすに足る証拠がない。

してみると、被告は、原告に対し、本件前渡代金残額四十六万円及び、これに対する前示合意解約の日の翌日である同二十六年十二月二十日から完済まで、商法所定の範囲内である年五分の遅延損害金を支払う義務があるわけであるから、原告の本訴請求中、右支払を求める部分を正当として認容し、前渡代金支払日の翌日から前示合意解約の日までの遅延損害金の支払を求める部分を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十二条を、仮執行の宣言について同法第百九十六条第一項を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 下出義明)

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